相続対策

ここまでは残された家族の生活保障という観 点から生命保険を考えてきました。一方、相続 発生時に高額の相続税がかかるため、納税資金 確保を目的に生命保険に加入するとか、資産の 大半が居住用不動産といった場合に、相続人同 士で不公平が生じないよう、現金を確保するた めに生命保険を利用するケースがあります。 相続はいつ発生するか分からないので、この ような場合は、保障が一生涯続く終身保険を利 用するのが適切です。ただし、気をつけたいの が、本当に相続対策が必要かどうかです。人生 100年といわれる時代、数十年にわたって資 産を取り崩すことを想定すれば、実際に相続が 発生したときには相続税がかからない可能性も あります。発生するかどうか分からない相続税 のために、大事な資産から保険料を拠出するこ とが、優先順位として適切かを判断しましょう。 もし、相続対策のために生命保険を利用する なら、目的は死亡保障なので、複雑なしくみの ものは避け、いくらの保険料を払っていくらの 死亡保障が得られるかが理解できる、シンプル なものを選ぶとよいでしょう。

高齢者に生命保険は必要か

 それでも保険に加入するべきだとすれば、それは「必要だから」であろう。保険が必要だ、というのは、「保険に加入しないと、とても困ったことになる可能性がある」ということだ。

 そうでないなら、保険に加入する必要はない。つまり、保険会社のコストと利益を分担する必要はなく、保険に加入すべきではないのである。

 定年退職後の高齢者が生命保険に加入している例は多いようだが、彼らが亡くなったら誰か困るのだろうか。悲しむ人は多いかもしれないが、金銭面で路頭に迷う人はいないはずだ。

 残された配偶者は、退職金が相続できるだろうし、遺族年金ももらえるかもしれない。そもそも稼がないで使うだけの高齢者が永眠すれば、消費支出が減って家計にはプラスかもしれない。

 諸事情によって生命保険が必要だという場合も皆無ではないだろうが、多くの場合には、保険料を支払う代わりに同額を預金しておいた方が、残された配偶者の老後は安心だと思う。

 一方、新入社員に向かって「社会人になったのだから、生命保険くらい加入しないと一人前に見られない」などといった勧誘が筆者の若い頃には行われていたので、今でも行われているかもしれない。

 そもそも生命保険に加入していれば一人前なのかという基本的な疑問があるが、それはさて置き、新入社員のほとんどは独身であろうから、養うべき家族もいないケースがほとんどだろう。

 そんな新入社員が死んだとしても、悲しむ人はいるだろうが、金銭面で路頭に迷う人はいないだろう。新入社員が親の生活を支えている、といった場合は別であるが、そうでない場合には生命保険は不要であろう。