保険の考え方

結婚や子どもの誕生などを機に、死亡保障目 的の生命保険に加入する人は多いのですが、保 険の種類や保険金額を「勧められるまま」に決め ているケースがほとんどです。しかし、そもそ も生命保険が必要かどうかを考えるところから スタートするのが本来の姿です。 既に生命保険に加入している人も 加入を検討中の人も、図1のチャー トで自分の今の状況を整理してみま しょう。その際には、預貯金残高や 賃貸か持ち家かといった個人の資 産、遺族年金の有無、死亡退職金や 弔慰金などの福利厚生制度も考慮に 入れます。その結果、生命保険加入 が必要だと分かれば、保険金額と保 険種類を検討します。 保険の特徴を表す言葉に「貯蓄は 三角、保険は四角」というものがあ ります(図2)。例えば、保障の対象 となるトラブルが生じた際、必要保 障額が1000万円の場合、保険であ れば契約した時点で1000万円が確 保できますが、貯蓄で準備するには 長い時間を要する、という意味です。 ただし、必要な保険金額は時間の経 過とともに変化します。 契約後、貯蓄が増えたり子どもが 成長するなど、徐々に保険に頼らなくてはならない領域は減っていきます(図2)。 そのため、節目節目で保険金額を見直していく のが合理的です。例えば、団体信用生命保険*1 付きの住宅ローンを組んで家を購入したとか、 子どもの教育費の準備が整ったとか、親の遺産 相続で預貯金が増えたといった場合です(図3)。保障目的の生命保険は保険期間が長くなるほ ど保険料は高くなります。保険金額を見直して いくことを考えれば、できるだけ保険期間が短 く、割安な掛け捨て保険を選ぶのが合理的です。 月々の生活費の不足を補うには収入保障保険*2 が、子どもの教育費や予備資金等の不足を補う には10年程度の定期保険が選択肢となります。 勤務先に1年ごとに見直しのできるグループ保 険があれば、おそらく市販の商品よりも割安だ と思いますので、優先的に利用を検討します。 リタイアが視野に入り、子どもの教育費も一 段落したあたりで、生命保険をやめるタイミン グを探ります。保険期間が短い掛け捨て保険で あれば迷いが少ないのですが、長年継続し、解 約返戻金がある契約は判断に迷うと思います。 このような場合は、払済保険に変更するか、定 期保険特約を解約し、終身保険部分のみを継続 することを検討します。 払済保険とは、積み立て部分のある保険の場 合、変更時点での解約返戻金を原資に、一時払 いの終身保険に組み替えるものです。特約はな くなり、保険金額は小さくなるのが一般的です が、以後の保険料を払わず、終身保障が確保で きます。解約返戻金が少しずつ増えていきます ので、将来、医療費や介護費がかさんだとき、 解約して解約返戻金を費用に充てることも可能 です。この点は、終身保険部分のみを継続する場合も同様です。

保険を確率で考えてみましょう

 保険に加入している全ての客が支払っている保険料と、受け取っている保険金を比べたら、どちらが多いだろう?少し考えれば簡単にわかることだ。保険料から保険会社のコストや利益を差し引いた残りが保険金なのだから、保険料の方が圧倒的に多いのだ。

「何事もなければ、払い込んだ保険料が満額戻ってくるので、実質的に無料で保障が受けられる」ように見える商品もあるが、何かカラクリがあるはずだ。そうでなければ、保険会社が倒産してしまうからだ。例えば、途中解約すると払込額より払戻額が大幅に少なくなるかもしれない。内容をよくチェックしてみよう。

2020.3 国民生活 9 特集 生命保険を知る 結婚や子どもの誕生などを機に、死亡保障目 的の生命保険に加入する人は多いのですが、保 険の種類や保険金額を「勧められるまま」に決め ているケースがほとんどです。しかし、そもそ も生命保険が必要かどうかを考えるところから スタートするのが本来の姿です。 既に生命保険に加入している人も 加入を検討中の人も、図1のチャー トで自分の今の状況を整理してみま しょう。その際には、預貯金残高や 賃貸か持ち家かといった個人の資 産、遺族年金の有無、死亡退職金や 弔慰金などの福利厚生制度も考慮に 入れます。その結果、生命保険加入 が必要だと分かれば、保険金額と保 険種類を検討します。 保険の特徴を表す言葉に「貯蓄は 三角、保険は四角」というものがあ ります(図2)。例えば、保障の対象 となるトラブルが生じた際、必要保 障額が1000万円の場合、保険であ れば契約した時点で1000万円が確 保できますが、貯蓄で準備するには 長い時間を要する、という意味です。 ただし、必要な保険金額は時間の経 過とともに変化します。 契約後、貯蓄が増えたり子どもが 成長するなど、徐々に保険に頼らな 現時点で生命保険は必要か? くてはならない領域は減っていきます(図2)。 そのため、節目節目で保険金額を見直していく のが合理的です。例えば、団体信用生命保険*1 付きの住宅ローンを組んで家を購入したとか、 子どもの教育費の準備が整ったとか、親の遺産 相続で預貯金が増えたといった場合です(図3)。 ファイナンシャルプランナー。一人一人の暮らしに根差した保険や貯 蓄、運用などの相談業務を行う。セミナー講師としても活動している。 内藤 眞弓 Naito Mayumi 生命保険を契約する際の 視点と考え方 特集 3 *1 住宅ローン契約者が死亡・高度障害状態になったときに、残りのローンを肩代わりしてくれる生命保険。 死亡後、経済的に困る人がいる? 必要保障額を計算する え はい いいえ いいえ いいえ いいえ はい はい はい 遺族年金や死亡退職金、 貯蓄などで対応できる 団体信用生命保険の 付かない借金がある 死亡退職金や貯蓄で 清算できる 葬儀費用や身辺整理の ための貯蓄はある 保険は不要か 必要性が低い 保険は不要か 必要性が低い いいえ/不明 はい 図1 生命保険「要る」「要らない」チェック ※筆者作成 自力で準備 時間 家族に残すべき金額 必要資金の準備 子どもの成長 教育費の準備 住宅購入 資産形成 など 時間の経過とともに 保険は縮小できる 保険でカバー 図2 貯蓄は三角、保険は四角 ※筆者作成2020.3 国民生活 10 特集 生命保険を知る 特集 3 生命保険を契約する際の視点と考え方 保障目的の生命保険は保険期間が長くなるほ ど保険料は高くなります。保険金額を見直して いくことを考えれば、できるだけ保険期間が短 く、割安な掛け捨て保険を選ぶのが合理的です。 月々の生活費の不足を補うには収入保障保険*2 が、子どもの教育費や予備資金等の不足を補う には10年程度の定期保険が選択肢となります。 勤務先に1年ごとに見直しのできるグループ保 険があれば、おそらく市販の商品よりも割安だ と思いますので、優先的に利用を検討します。 リタイアが視野に入り、子どもの教育費も一 段落したあたりで、生命保険をやめるタイミン グを探ります。保険期間が短い掛け捨て保険で あれば迷いが少ないのですが、長年継続し、解 約返戻金がある契約は判断に迷うと思います。 このような場合は、払済保険に変更するか、定 期保険特約を解約し、終身保険部分のみを継続 することを検討します。 払済保険とは、積み立て部分のある保険の場 合、変更時点での解約返戻金を原資に、一時払 いの終身保険に組み替えるものです。特約はな くなり、保険金額は小さくなるのが一般的です が、以後の保険料を払わず、終身保障が確保で きます。解約返戻金が少しずつ増えていきます ので、将来、医療費や介護費がかさんだとき、 解約して解約返戻金を費用に充てることも可能 です。この点は、終身保険部分のみを継続する 見直し前提の商品選びを 場合も同様です。 ここまでは残された家族の生活保障という観 点から生命保険を考えてきました。一方、相続 発生時に高額の相続税がかかるため、納税資金 確保を目的に生命保険に加入するとか、資産の 大半が居住用不動産といった場合に、相続人同 士で不公平が生じないよう、現金を確保するた めに生命保険を利用するケースがあります。 相続はいつ発生するか分からないので、この ような場合は、保障が一生涯続く終身保険を利 用するのが適切です。ただし、気をつけたいの が、本当に相続対策が必要かどうかです。人生 100年といわれる時代、数十年にわたって資 産を取り崩すことを想定すれば、実際に相続が 発生したときには相続税がかからない可能性も あります。発生するかどうか分からない相続税 のために、大事な資産から保険料を拠出するこ とが、優先順位として適切かを判断しましょう。 もし、相続対策のために生命保険を利用する なら、目的は死亡保障なので、複雑なしくみの ものは避け、いくらの保険料を払っていくらの 死亡保障が得られるかが理解できる、シンプル なものを選ぶとよいでしょう。 医療保障を確保するには、生命保険に特約と して付加する方法と、単体の医療保険に加入す る方法があります。死亡保 障は不要だが、医療保障は しばらく続けたいなど、見 直しのタイミングは異なり ますので、それぞれ単独で 加入するほうがよいと思い ます。 医療特約も医療保険も、 医療法に定める病院や診療 所等に入院することが給付 相続対策が目的の場合 医療保障の考え方 *2 「特集2」5ぺ-ジの表を参照 必要保障額が変化する要素 ・住宅購入  ・住宅ローンは団体信用生命保険あり ・子どもの進学、卒業  ・教育費の負担が減少 ・配偶者の収入が増える  ・毎年の貯蓄額が増える  ・万一のときの収入が増える ・預貯金額の変動  ・相続・贈与などで預貯金が増加  ・退職金の受け取り シングル~夫婦2人 第1子誕生 第2子誕生 住宅購入 教育費終了 時間の経過 必要な保障額 図3 必要保障額は変化する(イメージ) ※筆者作成2020.3 国民生活 11 特集 生命保険を知る 特集 3 生命保険を契約する際の視点と考え方 に加入するという人も多いようです。しかし、 今後75歳以上人口が増え、15 ~ 65歳の生産 年齢人口が減っていくのは確実です。医療や介 護サービスの担い手が減っていくわけですか ら、国は病床機能(急性期・回復期・慢性期)の 分化を図り、病床数を削減して集約する方向に 動いています。 地域包括ケアシステムという言葉をよく耳に しますが、かかりつけ医や薬局薬剤師などの専 門職と連携し、在宅医療やさまざまな介護関連 サービスを利用しつつ、看み 取りまで地域で行う ことをイメージしています。介護医療院などの 介護関連施設で長期療養することになれば、医 療特約や医療保険の給付要件には該当しませ ん。また、本人に請求能力がなくなることも考 えられます。本人に代わって請求できる指定代 理請求人の制度はありますが、指定できるのは 保険会社が定めた所定の親族に限られます。 これまで経験したことのない将来が待ち受け ているのですから、「所定の入院」「所定の手術」 など、過去のデータに基づいて設計される保険 商品より、使い道を自由に決められる貯蓄のほ うがフレキシブルに対応できます。貯蓄をしっ かり積み上げていくためにも、保険料支出が過 大にならないよう、現役時代にはシンプルで割 安な保険を利用するとよいでしょう。 の条件です。通院での手術を保障対象とする保 険も多いのですが、入院給付金の5倍くらいの 手術給付金(入院日額5,000円で25,000円)が もらえる程度です。健康保険の高額療養費制 度*3もありますので、保険にこだわらず、預 貯金で賄うという考え方もあります。 貯蓄がないため入院費用が払えないとか、長 期入院になると経済的に厳しいといった人は、 シンプルで割安な医療保険の加入を検討しま す。図2で見たように、時間が経過して貯蓄が 増えれば保険に頼らなくてもよい時期がきま す。そのためにも、貯蓄の妨げにならない程度 の保険料にとどめておくのが賢明です。 生命保険にしろ医療保険にしろ、保険料払込 期間が長くなるほど、コストパフォーマンスが 悪くなります。なぜなら、保障内容は変わらな いのに、今まで支払った保険料の総額が積み上 がっていくからです(図4)。また、医療保障は 公的医療保険や医療の提供体制と深いかかわり があります。医療保険は入院が基本といいまし たが、平均入院日数は短縮傾向が続いています。 とはいえ、高齢になるほど入院日数が長くな る傾向にありますので、将来に備えて医療保険 遠い将来の医療保障確保は 現実的か 保険 積立貯蓄等 換金性 低い 高い 所定の要件(死亡・生存・所定の入院等)に該当し ない限り現金化できない いつでも現金化できるため、教育費や疾病予防、 家事サービス購入等、使途に制限なし 時間の経過 不利 有利 給付内容は変わらないため、保険料払込期間が長 くなるほど、費用対効果が悪化する 「必要とする時期」が先に延びるほど貯蓄は増え、 心配事が起きなければ自由に使える 早期に要件該当 有利 不利 支払った保険料にかかわらず、契約で定められた 給付が受けられる 元利合計額までが使える金額である まとめ 契約次第 自分次第 図4 保険と貯蓄の「強み」と「弱み」 ※筆者作成 *3 同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、所得に応じた一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻 される制度

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